アスベスト法規制の歴史
はじめに
アスベストを含む建材製品は1955年ごろから使われ始め、1960年代の高度経済成長期には鉄骨造建築物などの軽量耐火被覆材として多く使用された。しかし、アスベストは人が吸い込むと15〜40年の潜伏期間を経て肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こす恐れがある。そのため法律で使用が制限されるようになり、現在では全面的に禁止されている。本稿ではアスベストに関する法規制の歴史を解説する。
法規制の変遷
■じん肺法の制定(1960年)
アスベスト製造工場などにおける労働者の健康障害予防のために制定。
■特化則の制定(1971年)
「特定化学物質等障害予防規則」(特化則)が制定されたことにより、その前後でアスベストによるばく露の状況が大きく変化したと考えられている。
■吹付け作業の原則禁止(1975年)
特化則の改正により、アスベスト含有率が5%を超える建材の吹付け作業が原則として禁止となる。
■規制対象を拡大(1995年)
「労働安全衛生法施行令」(安衛法施行令)の改正により、アモサイト、クロシドライトの輸入、製造等が禁止となる。
また、特化則の改正により、アスベスト含有率が1%を超える建材の吹付け作業が禁止となる。
■10品目の製造・使用が禁止に(2004年)
アスベスト含有建材、摩擦材、接着剤等、10品目の製造等が禁止となる。
■石綿則の制定(2005年)
特化則からアスベスト関連を分離し、単独の規則である「石綿障害予防規則」(石綿則)を制定。解体・改修での規制(届出、特別教育、石綿作業主任者等)が追加された。
■アスベスト製品が全面禁止に(2006年)
アスベスト含有率が0.1%を超えるアスベスト製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止となる(一部製品については猶予措置が設けられた)。
■事前調査の方法を法定化(2021年)
解体・改修工事前にアスベスト含有建材が使用されているか否かを調査する「事前調査」の方法が法定化された。設計図書などの文書による「書面調査」と、現地で部材の製品情報などを確認する「目視調査」の両方を行うことが原則必須となる。また、これらの調査でアスベストの使用の有無が明らかにならなかった場合には、分析による調査の実施が義務となる(※アスベストが使用されているものとみなして、ばく露防止措置を講ずれば、分析は不要)。
■事前調査結果報告を義務付け(2022年)
一定規模以上の建築物や特定の工作物の解体・改修工事において、すべての種類の建築材料についての事前調査結果等をを労働基準監督署・自治体に報告することが義務となった(原則電子申請)。
■事前調査者の資格要件を新設(2023年)
2023年10月より、建築物の事前調査は、厚生労働大臣が定める講習を修了した者等が行うことが義務付けられた。
さいごに
アスベスト含有率が0.1%を超えるアスベスト製品の使用等は、2006年に全面禁止となった。解体・改修工事の対象となる建物が、2006年以前に建てられたものならアスベスト含有を疑う必要がある。その調査については、有資格者が行うこと、結果を報告することが義務付けられている。違反した場合、罰則が適用される。制度の内容を把握した上で必要な調査を行うことが重要である。
[参考]
環境省『建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和3年3月)』
環境省『私たちの環境とアスベスト(一般啓発用パンフレット)』
厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト