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災害時におけるアスベスト対策

はじめに

2024年1月1日に発生した能登半島地震や同年4月3日に発生した台湾東部沖地震では、多数の建物が倒壊・損壊した。南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模地震も遠くない未来に発生すると予想されている。

大規模地震をはじめとする災害時には、建築物等の倒壊・損壊によるアスベスト含有建材の露出、解体・補修、廃棄物処理に伴ってアスベストが飛散し、住民や災害対応の従事者がばく露するおそれがある。

本稿では、地方公共団体、建築物の所有者、解体工事関係者、廃棄物処理業者等が、災害時におけるアスベスト飛散・ばく露防止対策にどう取り組むべきかについて、環境省『災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(第3版)』を基に解説する。

環境省によるマニュアルとは

環境省では2007年8月、阪神・淡路大震災の教訓を基に『災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル』を作成した。その後、2017年9月に東日本大震災や熊本地震の経験を踏まえて改訂(第2版)。さらに大気汚染防止法の改正などをを踏まえて2023年4月に改訂した(第3版)。

第3版は、災害発生前の平常時における準備から、災害発生時の応急対応、環境モニタリング、調査・計画・届出、倒壊・損壊を受けた建築物等の解体工事における対策、収集・運搬・処分まで、細かく取りまとめられている。ここから先はその一部を抜粋・要約して紹介する。

平常時における情報整理

災害発生時に速やかにアスベスト飛散・ばく露防止の応急対応を実施するには、平常時から建築物等におけるアスベスト使用状況を地方公共団体が把握しておく必要がある。

アスベスト使用建築物等の把握にあたっては、既存情報の活用が効率的である。既存情報の一例としては、以下の情報がある。

◎アスベスト調査台帳

◎地方公共団体所有施設等における石綿含有建材の使用実態調査結果

◎大気汚染防止法の届出履歴

◎大気汚染防止法の事前調査結果報告

地方公共団体はこれらの情報について、平常時から所管部署と連携して共有・整理することが重要である。最も優先的に把握するべきアスベスト含有建材は、飛散性の高い「石綿含有吹付け材」「煙突用断熱材」である。

災害発生時の確認調査

下表は災害発生後の各段階における対応の概要を取りまとめた表である。

■石綿飛散の要因となる状況と対応の概要

環境省『災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(第3版)』より


表内「応急対応」段階における「石綿含有吹付け材等の露出」の確認調査については、アスベスト含有建材に関する知識を有する技術者等の協力を得て、地方公共団体が実施することが望ましい。このため、協力体制をあらかじめ構築しておくことが望まれる。一部の地方公共団体では、技術者等が所属する企業・団体と災害時の協力に関する協定を締結している例もある。

■災害時支援協定の例

環境省『災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(第3版)』より

被災建築物の解体等工事

損壊建築物等の解体・改造・補修工事を行う元請業者または自主施工者は、原則として平常時と同様にアスベスト等の使用有無に関する事前調査を実施する。そして事前調査の結果に基づき、被災による障害を安全面から判断し、被災区分(建築物等への立入の可否)を判断する。

■「立入可」の場合におけるアスベスト飛散防止措置

平常時と同様にアスベスト除去後に解体等を実施する。アスベスト含有建材からの飛散防止措置は、平常時に準じて行う。

■「立入不可」の場合におけるアスベスト飛散防止措置

完全に倒壊した建築物や補強によっても立入不可能な建築物については「注意解体」とし、アスベスト含有建材からの飛散防止に努める。

さいごに

災害時におけるアスベスト飛散防止対策の実施・責任主体は、地方公共団体と建築物等の所有者(解体等工事は元請け業者、廃アスベスト等の収集・運搬は廃棄物処理業者も含む)にあり、緊急性・迅速性の判断が最も重要となる。そのためにも関係各所が平常時の備えを進めておく必要がある。

参考

環境省『災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(第3版)』

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アスベスト調査分析株式会社分析 担当 アス研編集部
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