JIS A 1481-1の分析方法と特徴
はじめに
建材に含まれるアスベスト含有の分析方法は、JIS(日本産業規格)で定められており、JIS A 1481-1 ~JIS A 1481-5の5つの方法が存在する。その中から、本稿ではJIS A 1481-1について解説する。
JIS A 1481-1の概要
アスベスト含有の分析方法は「定性分析」と「定量分析」に大別される。定性分析はアスベスト含有の「有無を確認する」ための分析方法であり、定量分析はアスベストの「含有率を確認する」ための分析方法である。
JIS A 1481-1は、定性分析の分析方法である。分析は、実体顕微鏡と偏光顕微鏡を用いて行う。
JIS A 1481-1 分析の流れ
ステップ1 実体顕微鏡による観察とプレパラートの作製
実体顕微鏡は、物体をそのままの状態で拡大して観察するための顕微鏡である。
JIS A 1481-1ではまず、検体全体を実体顕微鏡で観察し、アスベスト繊維の有無を確認する。繊維が見つかった場合は、次に行う偏光顕微鏡観察のためのプレパラートを作製する。
ステップ2 偏光顕微鏡によるアスベスト含有の判定
偏光顕微鏡は、試料に偏光を照射して観察する顕微鏡である。
作製したプレパラートを偏光顕微鏡によって観察し、繊維の光学的特性について、多色性、複屈折、消光角、伸長性の正負などを確認することで、アスベストかどうか、アスベストの種類は何かを判定する。
JIS A 1481-1の特徴
JISで定められた定性分析の方法としては、JIS A 1481-1の他にJIS A 1481-2がある。JIS A 1481-2では、X線回折装置と位相差・分散顕微鏡による分析を行い、それらを併せてアスベスト含有の有無を判定する。両者の比較を通じてJIS A 1481-1の特徴を紹介する。
国際的評価
JIS A 1481-1はISO(国際標準化機構)に基づいて考案された分析方法を、内容をそのままに工業標準化法により日本向けに制定されたものであり、分析方法として国際的に評価されている。
JIS A 1481-2は日本独自の分析方法である。経済産業省が過去にISO規格への採用を求めたが、不採用となった経緯がある。
分析者に必要な経験・能力
JIS A 1481-1は、すべて人間の目によって確認が行われるため、分析者に経験・能力が求められる。
JIS A 1481-2は、X線回折装置を使用した機械的な分析を行うため、分析者の経験・能力によって分析結果が左右されにくい。
層別分析
JIS A 1481-1は塗材などの層が複数存在する建材であっても、層別でアスベストの含有を判定することができる。
JIS A 1481-2は分析に当たって検体を粉砕するため、層別の分析ができない。
天然鉱物中のアスベスト
JIS A 1481-1は、アスファルト防水のように材料中に不純物として混入した天然鉱物中のアスベストも分析可能である。
JIS A 1481-2は、建材製品中のアスベスト分析だけを対象としており、アスベストが不純物として含有するおそれのある天然鉱物およびそれを原料とした製品には適用できない(※)。
※出典
厚生労働省『石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル 【第2版】』令和4年3月
https://www.mhlw.go.jp/content/000919436.pdf
納期・価格
JIS A 1481-1は、JIS A 1481-2と比較して必要な工程が少ない分析法である。そのため一般的にJIS A 1481-1はJIS A 1481-2より短納期・低価格で分析結果を出すことが可能である。
さいごに
層別分析のできない分析法を採用した場合、例えば外壁塗装の下地調整材や、成形板の接着剤にアスベストが含まれているのに「不含有」と判定してしまうことも起こりうる。このような不正確な分析を行うと、その後のアスベスト対策工事の費用や工期、そして作業者の安全性にも大きく影響する。逆にJIS A 1481-1による層別分析を活用すれば、工事費の圧縮、工期短縮、安全性向上など、さまざまななメリットが得られると考えられる。
当社ではアスベスト含有の分析方法として、層別分析が可能なJIS A 1481-1を中心に採用し、確かな経験を持つ有資格者が分析を行っている。